日本ボリビア協会 - Asociacion Nippon-Bolivia -
会報「カントゥータ」
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日本ボリビア協会 - Asociacion Nippon-Bolivia -
Mayo 2003
じゃがいもの旅の物語
-その3- インカからジパングまで
杉田 房子(旅行作家)
協会からのお知らせ
ボリビアの話題
コパカバナの聖母
ティワナク再訪
ボリビアで活躍する日系人
じゃがいもの旅の物語
37ヵ月間のラパス勤務
ボリビアの味サルテーニャ
息せききって口もきけない飛脚の若者が、首に下げていた袋を村長に渡す。口を開ける手元を見つめていた村人がざわめいた。
「キープだ」
文字を持たないインディオは、数をキープという結縄で示した。結び目のこぶが物の数である。多すぎたり複雑すぎると、こぶに枝縄を垂らした。物の種類があまり多いと、縄に色付けして区別する。
「金銀、毛皮、それにパパスとチュノ」
村長は、黙ってキープを読んだ。
「金銀に毛皮などは構わんが、チュノまでこれ程となると、村は総ざらいになる」
キープを読み取り、自分でも結べるのが村長の資格の一つだった。長老も全員ができるわけではないし、普通の村人は全然分からない。けれどキープが来たのだから捧げ物をしなければならず、それも容易な数ではない推測はつく。結び目の数を黙々と確かめる村長の姿に村人は息を殺した。
「それを、若くて丈夫なラマに積み、太陽の祭の日までに山裾の町へ運ぶこと。さもなくば、白い肌の人ビラコチャが攻めてくる。」
飛脚が、息をあえがせながら途切れ途切れに伝言した。
「ビラコチャが攻めてくる――だって」
じゃがいも踏みの畑から男達を追ってきて、遠巻きに見守っていた女たちの中で、年嵩の女が囁いた。悲鳴を押えていた女たちの呻きに男たちが振り返り、村長が沈黙を破った。
「これから、村の長老会議をやる。お前たちはパパスとチュノを広場に集めるのだ」
飛脚の介抱と、長老を集めるのを命じて、村長は神殿の正面に当たる家に入った。そこは神殿の社務所であり、村役場であり、議会であり、裁判所であり、共同貯蔵庫であった。神殿が太陽の神に通じているのなら、この家は村人の暮らしと結びつき、アンデスを支配するインカの皇帝につながっている。
戸口の他は窓一つないアドベ壁に囲まれ、草葺きの屋根と床の土間とがむき出しの造りは、村の家と同じだが、土間には村長と長老の座る床几が並んでいた。村人には、見ただけで重々しい床几の列が集まった長老で埋まると、村長はキープをかざし、飛脚の伝言を伝えた。
「チュノまで持っていかれるのじゃと」
「来年まで食べつなげるじゃろか」
長老の呟きに、村長が低い声で言った。
「チュノは一つでも少なくする工夫をせねばな。だから------荷を運ぶ隊は、わしが宰領していく」
今度は長老も叫んだ。
「村長が行く------。後はどうする。騒ぎが収まらなかったら、村はどうするのじゃ」
「長老は、万一のときの備えをしておいてもらいたい。避難する場所を決め、食物を隠しておく。それも一ヶ所だけでなく」
村長は口を閉じた。長老は沈黙した。
長い長い沈黙が、薄暗い家の中を満たした。ほの白い明かりが差し込む戸口から、村人が広場に運んでいるじゃがいもの日向くさい土の香りが、アンデス山地の澄んだ微風に乗って漂い流れ込んできていた。
灯がともったその夜の村は、収穫が終わってから、一番静かな晩になった。
灯は乾かしたラマの糞に火を移したもので、インディオはサキエと呼ぶ。草木が乏しいアンデス山地では、燃料であり灯でもあった。近い親類が家を隣り合せて住む村では、主だった身内のものの家で、燃料と灯の倹約に夕食を一緒にとる。楽しみの少ない山村で、それはまた娯楽の一つでもあった。
素焼きの土器がせいぜいの食器では、器のかち合う音こそないが、男たちは壷からトウモロコシ酒を飲んで話し込む。じゃがいもとラマの乾肉を煮込んだチャルキというスープを、女たちは土鍋からすすっては噂話にふける。トウモロコシと唐辛子と豆と菜とをとろとろに煮たモチ粥を、子供たちはむさぼり食べてはふざけ散らす。普段は騒々しいのに、この夜はさすがに静かに過ぎていった。
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